住宅ローン特則とは
はじめに
個人再生手続きには、「住宅ローン特則」と呼ばれている「住宅資金貸付債権に関する特則」があります。個人再生手続きを選択する方の大多数の方は、住宅ローン特則を付けて裁判所に申立をします。破産手続きを選択せずに、個人再生手続きを選択する理由としては、住宅、マイホームを守りたいという理由であることがほとんどだからです。以下、住宅ローン特則につき、説明します。
住宅ローン特則とは
そもそも、住宅ローン特則とは何でしょう。住宅ローン特則は、マイホームの住宅ローン等については今までどおり返済をすることによって、マイホームの住宅ローン以外の借金だけを個人再生手続きによって減額し、分割払いとすることができる制度です。住宅ローンの返済はリスケジューリング(リスケ)することも可能です。
住宅ローン特則ができた背景
民事再生法は、「経済的に窮境にある債務者の事業または経済生活の再生」を目的に2000年4月1日に施行されました。その後、2001年4月1日に民事再生法の改正として個人再生手続きが施行されました。
個人再生には「小規模個人再生」と「給与所得者等再生」の2種類の手続きがあります。また、住宅ローンを抱える債務者がマイホームを手放さずに借金を整理できるようにする「住宅資金貸付に関する特則(住宅ローン特則)」が創設されました。
これまで任意整理で返済することが困難な多額の借金を整理するには、自己破産を選択し、結果的にマイホームを手放さざるを得なかったのですが、住宅ローン特則が創設されたことにより、マイホームを手放すことなく借金の整理をすることができるようになりました。
住宅ローン特則に定めることができる内容
「住宅資金貸付に関する特則(住宅ローン特則)」を利用し個人再生手続きをおこなう場合は、再生計画にそれぞれの状況に応じた住宅ローン特則の返済方式を選択し、その再生計画を裁判所に認可してもらう必要があります。
住宅ローン特則の返済方式は以下の5つで、1から順番に検討していくことになります。
- 現状維持型(民事再生法199条1項)
- 期限の利益回復型(民事再生法199条1項)
- リスケジュール型(民事再生法199条2項)
- 元本猶予期間併用型(民事再生法199条3項)
- 合意型(民事再生法199条4項)
1.現状維持型(民事再生法199条1項)
最も一般的な方法で、当初の約定に変更を加えず、その約定どおりに弁済を継続していきます。簡単にいうと、住宅ローンを今まで通り支払うということです。
2.期限の利益回復型(民事再生法199条1項)
既に住宅ローンの弁済を滞納している場合は、滞納している分を再生計画で定めた期間内に弁済することで、個人再生手続きをおこなう前に滞納によって生じていた期限の利益喪失の効果を失わせます。
例えば、月8万円の住宅ローンの支払いがあり、個人再生手続きの前に16万円(2か月分)の滞納があった場合、再生手続き後、再生計画の弁済期間を3年と定めた場合には、滞納分16万円については毎月4500円(16万円÷36回)を弁済していき、それにプラスして約定通りに月8万弁済していきます。
3.リスケジュール型(民事再生法199条2項)
現状維持型や、期限の利益回復型で再生計画認可の見込みがない場合、利息と遅延損害金を含めた住宅ローンの全額を弁済することを条件として、支払期限を延長し、各回の弁済額を減額していく方法がありす。
弁済期間が最大10年間延長されるので、毎月の支払い額は随分減額されますが、リスケジュールをした後の最終の弁済日が70歳までという制限があります。
4.元本猶予期間併用型(民事再生法199条3項)
期限の利益回復型またはリスケジュール型による再生計画認可の見込みがない場合に、住宅ローンの弁済期間を延長し、再生計画による住宅ローン以外の債務の弁済期間中は、住宅ローンの元本の一部及び残元本総額に対する利息のみを弁済していく方法があります。
5.合意型(民事再生法199条4項)
弁済額の減額、弁済期間を10年より延長、最終弁済日が70歳以上といった条件を住宅ローン債権者との同意を得て定める方法があります。
住宅ローン特則を利用するための要件
住宅ローン特則は、誰でもどんな場合でも利用できるものではく、利用するためにはいくつかの要件があります。ここでは、どのような場合に利用できるのか、またはできないのかを説明します。
1.対象の住宅であること
借入金が、住居として利用するための家のローン(住宅ローン)であることが必要です(リフォームローンも可)。つまり、店舗や事務所として利用している場合、住宅ローン特則を利用することはできません。この場合の住居は、戸建てかマンションかは問われません。
2.本人が所有し住んでいる家であること
個人再生を申立てる本人が所有し、本人が住んでいる家でなければならず、投資目的の不動産や事業用の店舗には住宅ローン特則は認められません。自宅兼事務所などの場合、床面積の2分の1以上が自宅である必要があります。
3.住宅ローンに抵当権が設定されていること
住宅資金を担保するために住宅に抵当権が設定されている必要があります。
4.住宅ローン以外の抵当権が設定されてないこと
事業資金を担保するために住宅に抵当権が設定されている場合は、住宅ローン特則は利用できません。会社経営者や個人事業主の方で、自宅に事業資金として第2抵当を付けて借り入れをしている方がいますが、この場合には、住宅ローン特則を利用することはできません。
5.保証会社の代位弁済から6か月以内であること
債務者が住宅ローンを一定期間滞納すると、保証会社が代位弁済(債務者の代わりに住宅ローン会社に住宅ローンを一括弁済すること)をおこないます。この場合は原則として、住宅ローン特則を利用することはできませんが、例外的に、保証会社が住宅ローンを代位弁済してから6か月以内に個人再生の申立てをしたときには、住宅ローン特則を利用することができます(民事再生法198条2項)。
住宅ローン特則を利用する際の注意点
住宅ローン特則を利用する際に押さえておくべき注意点がいくつかあります。その注意点と対策を説明します。
1.住宅ローンの引き落とし口座の銀行から借入がある場合
個人再生手続きをする場合、依頼を受けた弁護士は各債権者に受任通知を送ります。
弁護士から受任通知を受けた場合、貸付をしている銀行は、当該口座を凍結し、債務者は一時的に同口座から出金ができなくなってしまいます。また、借り入れをしている銀行の他の支店の口座も凍結される可能性があります。
もし、当該口座が住宅ローンの引き落とし口座である場合、口座が凍結されてしまうと、住宅ローンの引落しができなくなり滞納となってしまいます。
そこで、住宅ローンの引き落とし口座の銀行から借入がある場合には、弁護士は、住宅ローンの引き落とし口座になっている銀行に受任通知を送る際、「住宅ローン特則を利用する予定である」ことを明記して送ります。
こうすることにより、住宅ローンの引き落とし口座を凍結させず、債務者は住宅ローン弁済を続けることができます。
2.住宅ローン以外の支払いを確認すること
住宅ローンの支払いを続けながら、再生計画案に従った弁済ができるか、また、裁判所や弁護士費用の支払ができるか等、住宅ローン以外の支払いについて個人再生の申立前に確認する必要があります。
〈確認すること〉
- 住宅ローン特則を利用すると、住宅ローンは減額の対象に含まれないためこれまで通り支払うことができるか。
- 再生計画案に従った弁済ができるか。
- 個人再生手続きの弁護士費用がいくらか
- 個人再生委員が選任された場合はその報酬金がいくらか(東京地裁の場合は、15万円)
なお、弁護士が各債権者に受任通知を送ると、各債権者への支払いが一時的にストップします(住宅ローンを除く)。その間に、③弁護士費用や④個人再生委員の費用の積立てを行っていくことが一般的です。③、④を支払い終わった後に、②の支払いがスタートすると思って下さい。
3、住宅ローンの借り換えがが難しいこと
個人再生手続きをおこなうと、信用情報機関に事故情報が登録され、いわゆる「ブラックリスト」にのるという状態になります。
事故情報が登録されると、今後、住宅ローンの借り換えや、新規のローン契約はできない可能性が高いです。ただし、一定期間が経過すれば事故情報は削除されますので、その場合には住宅ローンの借り換えや新規のローン契約も可能になります。
4.個人再生が取り消しになる場合があること
再生計画案の返済が滞った場合は、個人再生の認可決定が取り消しになる場合があります。当初と状況が変わってしまったり、返済が難しいなど、場合によっては再生計画の変更も可能ですので、早めに弁護士にご相談ください。