ウカイ&パートナーズ法律事務所では、不倫誓約書についてのご質問を頂くことがよくあります。不倫誓約書について、離婚問題を数多く取り扱っている弁護士がご説明いたします。
不倫誓約書とは、不倫した配偶者や不倫相手が当事者に対して一定の約束が記載されている書面のことです。不倫誓約書の作成については、その構成が法律で定められている訳ではなく、内容や形式は自由に定めることができます。一般的には表題・前文・事実の概要・被害や損害・示談の内容(本文) ・日付 ・当事者の表示 ・署名押印といった内容を記載します。書式自体は作成が難しいわけではありません。示談の内容(本文)には、下記等を記載します。
不貞行為についての謝罪
不倫関係を解消すること
不倫相手との連絡の禁止
慰謝料の額と支払時期や支払方法 等
不倫誓約書に誓約者本人の署名とその者の印章による押印がある場合には、当該誓約書が真正に成立したものと推定されることになります。また、誓約書の内容に関しては、その内容が公序良俗に反するなど法律上認められないものでなければ有効です。
(1)不貞行為の証拠となる
不倫誓約書に不貞行為を行った事実を認める文言を入れておくと、その後離婚を求める場合や不倫相手に慰謝料を求める場合などに不貞行為の事実があったことの証拠として利用できる可能性があります。
(2)離婚訴訟を有利に進められる
将来離婚調停を申し立てる時、相手方が不貞行為の事実を認めていれば不貞行為の証拠の如何にかかわらず慰謝料請求を行うことができます。また、この時点で不貞行為の事実を認めなかったとしても、調停では証拠が結論を左右する決定的な原因とはならないため、現時点での証拠を提示することしかできなかったからといって慰謝料請求ができなくなるわけではありません。
しかし、調停が不成立となって最終手段として訴訟で離婚を求める場合には、不貞行為の存在を推測させる有力な証拠が必要となります。訴訟で離婚請求するためには、民法第770条1項1号の法定離婚事由である「配偶者の不貞行為の事実」を主張立証する必要があるほか、慰謝料請求するためにはその根拠となる配偶者の不貞行為の事実を立証する必要があるためです。
例えば、メールなどの記録の内容は、性的関係があったことを推測させるようなものでなければ訴訟で不貞行為を証明する証拠としては不十分であると考えられます。不倫誓約書があれば、離婚訴訟で不貞行為を証明する十分な証拠となります。離婚訴訟を有利に進めるために弁護士にご相談下さい。
(3)不倫の抑止力になる
不倫誓約書には法的な強制力があるわけではありませんが、不貞行為についての謝罪、不倫関係を解消すること、不倫相手との連絡の禁止、今後の不倫の禁止、慰謝料の額と支払時期や支払方法、約束を破った時の違約金等の内容を具体的に記載することで、不倫の抑止力になります。
(1)事実関係や法律問題を明確にする
事実関係を明確にしておかないと、後に不倫契約書に記載された事実関係の存否をめぐる争いとなった場合に訴訟で立証する必要が出てくることがあります。誰と誰の間にどのようなことがあったか、それによって誰が誰に対してどのような義務を負うことになったかを明確にすることをお勧めします。
(2)不倫誓約書には法的強制力がない
一般的に、裁判所が作成に関与していない合意書(誓約書)の内容には法的強制力が発生しません。つまり、不倫誓約書の内容自体に調停証書や確定判決文のような強制力があるわけではありません。
したがって、この誓約書が存在していることをもって慰謝料を定めてその金額分の給与債権を差し押さえたりすることは弁護士によっても行うことはできません。差押え等をするためには、裁判をする必要があるのです。配偶者や不倫相手が任意に支払った場合はその支払は有効になりますが、その内容となっている慰謝料を支払わないと言っている場合には、離婚手続の中で慰謝料を請求するか、不法行為に基づく慰謝料(民法第710条)を期限を定めて請求する内容証明郵便を送り、支払われなければ民事訴訟を提起することになります。
(3)連絡を取ることを物理的に阻止できない
配偶者が不倫相手と再び会わないためにスマホ等の通信機器を取り上げたり壊したりすることはできません。不倫相手と連絡を取らせないために配偶者の携帯電話を隠したり壊したりするようなことまでは認められず、特に壊した場合は器物損壊罪(刑法第261条)が成立する可能性があります。
ただし、不貞行為を行った配偶者が関係を解消すると約束した場合には、不倫相手と再会したり連絡を取ったりした場合は違約金100万円を支払う、あるいは慰謝料を支払うというように相手の同意に基づいて金銭賠償義務を課すことにより接近禁止を間接的に強制することは可能です。しかし、不貞行為を行った配偶者が不倫相手と別れる意思がない場合は、直接的にも間接的にも接近禁止を強制することはできません。
(4)公正証書として作成する
不倫誓約書は裁判所の関与を経ていないため、両当事者が署名捺印したとしても調停証書や裁判の判決文のような強制力を有するものではありません。従って、示談書を作成したのに慰謝料等の支払いがなされなかった場合に、不倫誓約書を根拠として相手方の預貯金を差し押さえたりすることはできません。
ただし、不倫誓約書が公証役場で公正証書として作成されれば、金銭債権について不履行があった場合には裁判によらずに債務者の財産を差し押さえることができます。従って、不倫誓約書に慰謝料などの金銭支払いが含まれている場合は不倫誓約書を公正証書として作成することをお勧めします。
なお、不倫誓約書が公正証書として作成された場合に履行を強制することができるのは金銭の支払いのみとなります。たとえば不倫相手に、「配偶者と二度と会わない・連絡を取らない」旨を不倫誓約書で義務づけたとすると、仮に不倫相手が再び配偶者と会った場合は示談事項に違反したことになりますが、不倫相手と配偶者を強制的に別れさせることはできません。
(5)公序良俗に反しない
「不倫をしたら一生夫(または妻)の言うことを聞く」、「外出をする時は夫(または妻)の許可が必要」「不倫をしたら殴ってもよい」等の内容は、公序良俗に反するとされ、不倫誓約書の効力が無効になる可能性があります(民法90条)。
(6)犯罪の成立に気を付ける
配偶者や不倫相手に不倫誓約書を無理やり書くように迫ったり、その際に相手方に暴力を振るったり怪我をさせると強要罪(刑法223条)や傷害罪(刑法204条)の犯罪が成立する可能性もあります。不倫誓約書はあくまで相手方の任意で書くことが前提となります。相手方との交渉に自信がない場合には、弁護士にご相談下さい。