○ 婚姻費用とは、一言で言うと婚姻期間中の生活費です。婚姻中に受け取るのが婚姻費用で、離婚後に受け取るのが養育費と思って下さい。
○ 婚姻費用は、夫婦の収入・資産・社会的地位に応じて決められる婚姻生活を維持するうえで必要な費用で、具体的には、生計費、交際費、医療費、子の養育費、学費、出産費などが含まれます。
○ 主に別居に至った場合に問題となります。
○ もっとも、生活費に困った一方配偶者は、法律上夫婦である以上、別居の有無にかかわらず、相手方配偶者に対し、婚姻費用の分担の請求ができます。
○ 婚姻費用は、(1)夫婦で協議して決める方法と、(2)家庭裁判所に婚姻費用請求の調停・審判を申し立てる方法があります。
○ 婚姻費用請求は、離婚交渉をしている最中であっても、離婚交渉中の生活費として申し立てできます。
○ 夫婦間の話し合いで婚姻費用の金額を決めることもできます。この場合には、婚姻費用の支払協議書を作成すべきです。
○ 以下の事項につき、きちんと話合いがされたか確認しましょう。
○ 口約束しただけ、夫婦間でサインしただけでは強制執行ができません。できれば、公正証書を作成することをお勧めします。 ・「公正証書を作成していれば・・・」と後で後悔しないためにも、法律家によるきちんとしたアドバイスを求めることをお勧めします。
○ 相手方が婚姻費用の支払いに応じない場合には、家庭裁判所に「婚姻費用の分担の調停」の申立をしましょう。生活費の額や具体的な支払方法等についての取り決めを求めることができます。
○ 婚姻費用を裁判所に求める場合、訴訟ではなく調停を申し立てる必要があります。
○ 調停で合意すれば、判決と同一の効力が得られます。そして、合意後に婚姻費用の支払いをしない場合には、強制執行が可能です。
○ 調停手続きは、家事審判官(裁判官)・調停委員らによって、なるべく双方の意見を調整しながら夫婦の話し合いによって合意に達するよう進められます。双方が婚姻費用の合意に達すれば調停が成立しますが、折り合いがつかず、調停期日を数回開いても、相手方が出頭しないようなときには調停は不成立となり終了します。
○ 調停では、2名の調停委員を介して話し合いをするため、直接相手方と話し会う必要がありません。相手方と顔を合わせずに意見を言うことができるので、「相手方に言い負かされてしまう」、「相手方と顔を合わせたくない」と考えている方は、調停をする方が良いでしょう。
○ なお、婚姻費用の調停で代理できるのは、資格者の中で弁護士だけです。司法書士や行政書士など他の資格者では代理できません。
○ 仕事で出頭することが難しい方やDVなどで相手方と顔を合わせたくない方は、弁護士に代わりに出てもらうことが可能です。もっとも、具体的な事情をできるだけ伝えた方がいいので、本人も参加することが望ましいです。
○ 当事務所では、DV等の事案において、依頼者が調停で相手方に会うことを強く拒絶している場合には、あらかじめ裁判所に話を通して待合室を別の階にするように嘆願したり、出頭時間をずらすなど、最大限の配慮を図るようにしております。
○ 調停がまとまらず,不成立になった場合には自動的に審判手続が開始され,家事審判官(裁判官)が,当事者間の一切の事情を考慮して,婚姻費用を定める審判をすることになります。
原則、算定表で定まります。
○ 実務では、養育費の算定と同様に、平成15年「東京・大阪養育費等研究会」がまとめた算定表をベースにして決定されることがほとんどです。この基準は、裁判官達が作成した(1)夫と妻の税込年収、(2)子供の人数、(3)子供の年齢に応じて、2万円程度の幅で婚姻費用の金額が決定されています。
○ 表の見方のポイントですが、以下の通りです。
○ 具体的な見方は、弁護士にご相談下さい。
いいえ、例外もあります。
○ 算定表の範囲で婚姻費用を定めることが著しく不公平な特別な事情がある場合には、増減することになります。
○ 特別な事情があるにもかかわらず、当該事情を主張しないと不公平な婚姻費用で決まりかねません。どのような場合に、特別な事情にあたるかは、具体的事情により異なりますので、弁護士にご相談下さい。
○ また、算定表は、夫婦の収入を単純に当てはめるだけではなく、それぞれの収入が正しい収入と言えるか様々な諸事情から判断します。
○ 例えば、無職であっても、必ずしも算定表で「0」と評価されるわけではなく、潜在的稼働能力(いつかは働けること)が考慮されます。詳しくは、弁護士にご相談下さい。
・当事者の合意がある場合 | → | その合意により定めた日からです。 |
・当事者の合意がない場合 | → | 当事者で合意ができず裁判(調停・審判)に流れた場合の支払い時期は、申立をしたときからと実務で定着しております。 |
○ 過去の婚姻費用の請求は、例外的に認められる場合もありますが、原則として認められないと思って下さい。
○ このように、別居後に婚姻費用の支払いをしてもらっていない場合、後から過去の分を裁判(調停や審判)で取り戻すことは実務上困難です。生活費に困っている場合には、いち早く婚姻費用請求の調停を申し立てるべきです。婚姻費用請求の調停を代理できるのは資格者の中で弁護士だけです。司法書士や行政書士など他の資格者では代理できませんので、弁護士に相談することをお勧めします。
婚姻費用を依頼する場合の費用は、弁護士費用110番へ↓
はい。
○ 別居中でも、婚姻費用(生活費)の請求ができます。
○ 判例は、「婚姻関係が破綻し、別居や離婚訴訟または調停になっているとしても、現実に婚姻解消に至るまでは、夫婦の婚姻費用の分担義務は免れない」としております。
○ 婚姻期間中です。すなわち、離婚すれば、離婚時以降は、婚姻費用の請求ができません。ただし、子供がいる場合は、養育費の支払義務が発生します。
はい。
○ 公正証書や調停で決めた場合であっても、家庭裁判所に婚姻費用変更の調停を申し立てることで、増減が認められる場合があります。もっとも、合意後に相当程度の事情変更が生じている必要があります。状況に変化がなければ、認められない傾向にあります。
○ 減額理由としては、以下の具体例があります。
○ 増額理由としては、以下の具体例があります。
○ 具体的な事案により変わって来ますので、詳しくは、弁護士にご相談下さい。
はい、一定割合で考慮されます。
○ 借金が、婚姻生活において生活費としてやむを得ずしたものであれば、考慮されることになります。
○ 実際の考慮する額は、全額ではなく何割かになることが多く、ケースバイケースでしょう。債務の負担額を当事者の収入で案分することが、よくあります。
はい、一定範囲で控除されます。
○ 実務では、返済額を考慮して、算定表による算定額から一定割合を控除することが多いです。
○ もっとも、住宅ローンは、支払いを継続することで財産としての価値が増すものであり、また、ローン全額を控除すると婚姻費用が極端に少なくなるため、全額の控除は難しいでしょう。
○ 調停においては、相手方に給与明細・源泉徴収票の開示を求めることになります。
○ 収入が判明しない場合には、賃金センサスの平均賃金を基準に請求します。
○ 裁判実務で相手方の収入が判明しない場合に、全国の平均賃金として賃金センサスを利用することがよくあります。
○ なお、賃金センサスとは、厚生労働省が都道府県労働局、労働基準監督署を通して行っている職種別・年齢別の賃金に関する統計である賃金構造基本統計調査の情報を集めたものです。
○ 賃金構造基本統計調査は、主要産業に雇用される労働者について、その賃金の実態を労働者の雇用形態、就業形態、職種、性、年齢、学歴、勤続年数及び経験年数別に明らかにすることを目的として、毎年6月(一部は前年1年間)の状況を調査している調査です(厚生労働省HPより)。
○ 定職に就いた経験があり、就労可能、つまり、働けるのに働かない場合には、潜在的稼働能力があるとみなし、本来得られるべき収入を直前の収入を参考にしたり賃金センサス等の統計により算出して、その金額の収入があったものとみなすことが多いです。
○ もっとも、すぐに定職に就けそうもない場合には、パートタイム労働者の平均賃金を基準とする場合もあります。
いいえ。
○ 潜在的稼働能力がある(働こうと思えば働ける)場合には、パートアルバイト労働者の平均賃金を基準とする場合もあります。調停や審判では、「100-200万円程度の稼働能力がある」と評価されることが多いです。
○ 子供が乳児である場合や子供が病気の場合、妻自身が病気で働けない場合には、潜在的稼働能力がないと判断されることがあります。
いいえ。
○ 実家からの援助は、収入に加算されません。
○ もっとも、働けるのに働いていない場合には、収入があるものとみなされる場合があります。
はい、考慮される場合があります。
○ 算定表の枠を越える特別の事情があると言えるでしょう。この場合、治療費を双方の収入に応じて案分することが多いです。
はい。ただし、減額されることもあります。
○ 原則として、不倫については、慰謝料として精算されるべきであり、夫婦間の生活費や子の養育のための費用とは性質が異なり、考慮されません。
○ もっとも、「主として権利者(本件の場合の妻)に責任があるような場合には、婚姻費用は減額される」(札幌高裁昭50.6.30)と判断している審判例もあり、実務では婚姻費用が減額されることがあります。
強制執行をすることになります。
○ 強制執行の具体例としては、以下の財産を差し押さえる手段があります。
○ 強制執行は、法律的知識や実務知識が必要であり、手続きも複雑です。弁護士にご相談することをお勧めします。ウカイ&パートナーズ法律事務所では、強制執行手続きの代行も承っております。
はい。
○ 婚姻費用・養育費の履行確保の場合、差押禁止の範囲は給与の「2分の1」となります(民事執行法152条3項)。したがって、夫の給与の2分の1を押さえることが可能です。
○ なお、差押えできるのは、額面ではなく、手取りの2分の1です。
いいえ。
○ 婚姻費用・養育費に関しては、例え破産しても借金は免責されず、支払い義務が残ります(破産法253条)。したがって、破産後でも、夫に支払いを請求できます。
○ なお、個人再生の場合も同様に減額されず、婚姻費用・養育費を満額請求できます(民事再生法229条3項、破産法253条)