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ご相談事例
夫のDVに長年苦しみ子供も自立したので離婚したい。

2023/03/03更新

女性・ 50歳代

・子供有り

・結婚歴26~30年
夫のDV(家庭内暴力)に悩む50代の主婦です。子供が成人するまではと我慢していましたが、ようやく子供達も結婚し自立するようになりましたので、もう一日も夫と暮らしたくありません。弁護士の先生にどのように離婚をしたら、離婚後の生活が苦しくならずに済むかお知恵をお借りしたいと思います。

夫との結婚生活はちょうど30年になります。私はその間専業主婦でしたが、夫が単身赴任の間は生活が苦しくパートで働いてきました。金銭の管理は夫がしていますので、私名義の貯金はありません。
夫は外面の良い人で、知人や親せきは夫がDV(家庭内暴力)をするなどとは夢にも思わないと思いますが、私に対する暴力は結婚当初から続いていました。人目に触れるような場所には手を上げないので、私のDV被害を知る人はいませんが、子供達はうすうす感じていたと思います。

夫と離婚するにはどのような手続きを踏んだら良いでしょうか。私の今後の生活のことを考えると慰謝料や、財産分割、年金のことも知りたいのです。少しでも離婚後の生活が楽になるにはどうしたらよいか教えて下さい。
弁護士の法律相談希望です。
▼ 回答します
弁護士 上野 一成
手続上は、夫婦間で必要な協議事項について合意することができれば協議離婚(民法第763条)が可能です。ただし、直接話し合いをすると身に危険があるのであれば別居するなど距離を置いて身の安全を確保した上で、家庭裁判所に離婚を求める調停(家事事件手続法第255条1項)を申し立てることをお勧めします。調停では夫婦が対面で話し合うのではなく、別々に調停室に入ってそれぞれが調停委員に対して主張を行うという形で進められます。従ってご主人と直接面会することなく交渉をすることができます。なお、調停申立てをするのは「相手方の住所地を管轄する家庭裁判所」となります。従って、その時点で別居されていた場合もご主人と同居されていた家のある自治体を管轄する家裁に申立てをして下さい。なお、相談者様が遠方の御実家に帰られたような場合で、ご主人の家の方の家裁に出頭するには負担が大きい場合は、電話による調停参加も認められています。調停では、慰謝料(民法第710条)や財産分与(民法第768条)、年金分割等の協議事項について裁判官や調停委員が定めるのではなく、双方が主張した意見をすり合わせる形で調停委員が調停案を作成します。調停案に対して双方が合意すれば、原則として調停は成立します。ただし、合意していればどのような内容でもよいわけではなく、たとえば慰謝料請求が認められるためには相手方が不貞行為や暴力行為などの有責不法行為を行った事実があることが必要となるなど、法律的な制限はあります。なお、本件では、お子様が成年に達し、独立されていることから、親権者の定めや養育費、面会交流権などは協議事項に該当しません。
ご主人が離婚を拒否し続けたり、離婚には承諾しても慰謝料その他の協議事項の一部またはすべてに同意しなかった場合は、調停不成立となります。離婚そのものに合意がある場合で、協議事項の一部が合意に達しなかったときは裁判官の判断で審判手続(家事事件手続法第284条1項)に移行します。審判では当事者の話し合いは行われず、合意に達しなかった協議事項につき裁判官が審判を行います。その際に、離婚に伴う慰謝料の算定や財産分与、年金分割等の割合の定めが行われます。慰謝料算定はケースバイケースで、請求される側の離婚原因についての責任の程度、婚姻期間、相手の経済状況、扶養する子供の有無、財産分与の額などを考慮した上で算定されます。慰謝料の金額は一概には言えませんが大体200万円前後で、多くても500万円くらいであることが多いです。暴力が原因となる場合、比較的傷害が重い場合でも200万円~300万円くらいになると考えられます。
財産分与に関しては、名義に関わらず婚姻期間中に夫婦が協力して得た財産を寄与度に応じて分割するもので、専業主婦であっても分与割合は原則として2分の1とされる傾向にあります。
年金の支給については、相談者様自身のの国民年金とそれ以外に、合意分割制度あるいは3号分割制度によりご主人の厚生年金の一部を受給することになると思われます。厚生年金の合意分割制度は婚姻期間中に加入していた厚生年金の納付実績を多い方から少ない方に分割するもので、分割割合は当事者の合意によります。また、3号分割制度は、夫婦のいずれかが3号被保険者であった期間中の納付実績を自動的に2分の1に分割するものです。3号被保険者には2号被保険者(サラリーマン等)の配偶者で年収130万円以下の主婦などが該当します。審判で定めた協議事項は当事者が審判事項証明書を受け取ってから2週間以内に異議を申立てなければ確定しますが、当事者のどちらかが異議を申し立てた場合は効力を失います(家事審判手続法第286条5項)。審判事項が無効になった場合、あるいはご主人が離婚を拒否し続けたり、裁判官が審判手続を選択しなかった場合は、最終手段として離婚の訴え(民法第770条1項)を提起することになります。離婚の訴えを行うためには民法第770条1項1~5号が列挙する法定離婚事由のいずれかまたは複数に該当することを主張する必要があります。本件では、相談者様がご主人の暴力行為を長年受けていたことによって婚姻関係が破綻したとして「婚姻関係を継続しがたい重大な事由」(同条1項5号)に該当することを主張することができます。本件で相談者様が訴訟で離婚請求及び慰謝料請求が認められるためには、法定離婚事由及び慰謝料請求の根拠となる暴力行為の事実を立証する必要があります。立証に役立つ証拠として①直近の暴力行為で負傷した場合は負傷部位の写真②負傷部位の治療のために受診した医療機関の医師による診断書 ③暴力行為を受けている場面の音声や動画 ④暴力行為が行われた日時、場所、状況を記録した日記や手帳 ⑤心療内科、精神科等の診断書 ⑥DV防止法に基づき配偶者暴力相談支援センターに指定された機関(自治体の女性相談センター等)・警察署(生活安全課等)での相談記録などが挙げられます。⑥の配偶者暴力相談支援センターは警察署や福祉事務所と連携して緊急時の一時保護や、保護施設の紹介、裁判所による保護命令(DV防止法第10条1項)についての情報提供、被害者の生活再建と自立のための就労支援などを行っています。こちらでの相談記録が裁判でDVの事実の証拠となるだけでなく、今後の相談者様の身体安全の確保や自立支援を幅広く行ってくれるのでできる限り早期に相談に行かれることをおすすめします。慰謝料の算定基準や財産分与等の判断基準は審判と同様です。まず配偶者暴力相談支援センターに相談されるとともに、慰謝料請求や財産分与を確実にできるよう、離婚手続の進め方等を弁護士にご相談頂ければと思います。

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弁護士 上野 一成
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