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離婚問題テーマ別解説 「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」
~DV防止法の解説

我々弁護士が離婚問題の相談を受ける際、「配偶者からDVを受けた」、「DVで慰謝料請求をしたい」、「男の私が被害者でもDVの主張は通るのだろうか?」、「モラハラを受けているが離婚請求できるのか?」など、夫婦間のDV問題やモラルハラスメントで悩んでいるという相談が非常に多いです。このように、ウカイ&パートナーズ法律事務所では、離婚に関連してDV・モラルハラスメントについてのご質問を頻繁に頂いています。 そこで、本記事では、配偶者からの暴力に対して、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)の解説を中心に、被害者が取り得る手続き、被害者が受けることができる保護と支援、DVを理由として離婚するために必要なことについて弁護士が解説します。

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配偶者からの暴力とは

「交際中は紳士的で優しかった彼が、結婚したら事あるごとに暴力を振るうようになった。別居したいが実家には帰れずアパートを借りるのも難しい。どうすればよいか」、「夫が在宅勤務になってから夫の機嫌が悪くなり、命令に従わないと殴られたり、暴言を吐かれるようになった」、「妻から私の収入のこと等で頻繁に暴言を浴びている。ついかっとなって平手打ちしてしまったらDVだ、訴えてやるといわれた。妻の暴言こそDVではないか。こういう場合離婚することはできるか」・・というように、配偶者からの身体的・精神的暴力に悩む方は多く存在します。

配偶者からの身体的暴力や継続的なモラハラに悩む方は、「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(DV防止法)に基づく様々な保護と支援を受けることができます。他方、一般的に使われている「DV」という言葉は、このDV防止法の定める「配偶者または同居するパートナーからの暴力」に限らず、広く家庭内暴力や同居していない男女間の暴力等も指していることがあります。本章ではDV防止法の保護と支援の対象となる「配偶者からの暴力」の意味や、同法に基づく保護・支援、及びDVの被害者がそれらを受けることが必要である理由等について解説します。

1 DV防止法「配偶者からの暴力」の内容

(1)「配偶者からの暴力」の定義

DV防止法の適用対象となる「配偶者からの暴力」は、同法1条1項によれば以下の行為を指します。なお、「配偶者」には、事実婚のパートナーも含まれています。

①配偶者からの身体に対する暴力
(身体に対する不法な攻撃であって生命または身体に危害を及ぼすもの)

② ①に準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動

この点、①に含まれるのは、 (a)殴る・蹴る等の身体的暴力、及び、 (b)性的関係を強要する等の性的暴力です。②に含まれるものとして 、(c)生活費を渡さない・金銭を取り上げる等によって経済的に困窮させる経済的暴力、及び、 (d)交友関係を監視したり外出を禁止・制限する等の社会的暴力があります。(a)~(d)が重複している場合も一括して「配偶者からの暴力」に含まれます。

(2)DVに該当する可能性のある具体例

例えば、以下のようなことで悩んでいる方はDV防止法の適用を受け、同法による支援を受けることができる可能性があります。

・風呂場を掃除していたら背後からいきなりシャワーで水をかけられた (身体的暴力)

・夫に毎晩のように性行為を強要される。拒否すると暴言を吐かれる (性的暴力・精神的暴力)

・配偶者から、あるいは配偶者と配偶者の親族による暴言や嫌がらせを受けている。反抗すると「嫌なら出ていけ」等といわれる (精神的暴力)

・仕事で使用している物や大切にしている物を故意に壊された・捨てられた、あるいは使用できない状態にされてしまった(経済的暴力/精神的暴力)

・夫が専業主婦の妻に対して、生活費として光熱費等の実費しか渡さない (経済的暴力)

・夫が妻の携帯電話を取り上げる。あるいは頻繁に妻の携帯電話の交信履歴をチェックしている。実家の両親や友達と連絡を取らせない (社会的暴力)

(3)複数回にわたる加害行為はDVになる

複数回にわたる加害行為をされることで、DVに該当する可能性があります。つまり、夫婦の一方にとって「嫌なこと」を相手が繰り返し行い、嫌なことをされた側が身体的・精神的にダメージを負った場合は、「配偶者からの暴力」を受けていると考えることができる可能性があります。「嫌なこと」は、あくまでそれをされている側の主観的判断を基準にすることができます。例えば、上に挙げた例の中の「水をかける行為」等は、それ自体は生命や身体に危険をもたらす暴力とまではいえません。しかし、このような行為を行う配偶者は通常、それ1回で終わりというわけではなく、それ以前や以後にも嫌がらせ行為やモラハラ的な言動を行っていることが多いため、それらと併せれば被害者が身体的・精神的にダメージを受けることは明らかです。

(4)夫婦間以外の暴力は含まれない

一般的に使われている「DV」という言葉は、親の子供に対する暴力(体罰等)や、逆に、子供の親に対する暴力、兄弟間の暴力、同居する義父母による息子・娘の配偶者に対する暴力等も指していることがしばしばあります。これに対し、DV防止法の適用を受けるDVは、専ら法律婚・事実婚の夫婦間の暴力の防止と被害者の保護・支援を目的としているため、同法の適用を受けるのは法律婚及び事実婚の当事者に限られています。

(5)その他の適用法令(刑事罰等)

なお、特に身体的暴力行為に対しては、DV防止法の他に、通常の刑法の暴行罪(刑法第208条)・傷害罪(同第204条)等が適用されて加害者が処罰の対象となります。親と未成年の子供の間の暴力行為の問題に対しては、加害者が親である場合は刑法、未成年の子である場合は刑法及び少年法が適用される他、未成年者の保護に関して児童福祉法・児童虐待防止法が適用されます。その他の当事者間の暴力行為の問題に対しては、一般の刑法(暴行罪・傷害罪等)が適用されます。

DVに悩んだらとるべき行動

1 DV相談支援センターに相談する

配偶者から身体的・性的・精神的・経済的・社会的暴力を受けて悩んでいる方は、まず地域の配偶者暴力相談支援センター(DV相談支援センター)に相談することをお勧めします。これは、相談員に話を聞いてもらうためだけでなく、DV案件を行政が認知して被害者の安全確保と支援のための措置をとる上で必要な手続となります。DV相談支援センターは各都道府県に必ず1箇所以上設置されています(県や市町村の女性相談センター等がこれにあたります)。DV相談支援センターでは、予約制の相談を受け付けています。また、24時間対応の電話相談を受け付けているセンターも多くあります。DV相談支援センターで相談を受けると記録が残り、離婚を求める場合の調停や訴訟でDVの事実を立証する上で必要かつ有効な証拠となります。また、身体的暴力を受けている場合、相談記録は裁判所に保護命令を申立てる際の必要書類となります(離婚手続の証拠及び保護命令については後述します)。

2 警察に相談する

特に身体的暴力行為に対しては、警察(地域の警察署の生活安全課等)に相談することも可能です。DV防止法第8条・第8条の2及び警察法に基づいて、被害者から通報を受けた警察署は暴力行為の制止や加害者に対する指導・警告、その他暴力から生じる被害発生を防ぐための必要な措置をとってくれます。例えば、被害者が別居あるいは一時保護を求めて家を出た場合、加害者が警察に捜索願を出す可能性があります。警察に相談する際に加害者の氏名を伝えて捜索願を受理しないように依頼しておけば、加害者がその後捜索願を出しても不受理の措置をとってくれます。また、後述のように、傷害行為や子供に対する暴力行為が行われているような場合は、刑事事件として加害者から事情を聞く(刑訴法第197条1項)、現行犯逮捕する(刑訴法第213条)等の刑事手続を開始します。

3 弁護士に相談する

最寄りのDV相談支援センターへの相談とは別に、弁護士に相談することもできます。法律事務所では初回の法律相談を一定時間無料にしている所が多いので、来所が可能であれば無料相談を利用して「その被害者の方がこれからとるべき行動」についてアドバイスを受けることができます。また、離婚手続を始めとして代理人弁護士を依頼する必要がある、あるいは依頼することが望ましいのはどのような場合であるかを確認することもできます。 ウカイ&パートナーズ法律事務所でも、弁護士が裁判所にDV防止法に基づく保護命令申立てを代行致します。当事務所の法律相談は初回30分無料で御利用頂けます。また、当日のご予約も可能で、平日夕方のお仕事帰りの時間や土日にもお越し頂けます。

4 別居する・一時保護を求める

(1)所在地を知られないための方策

①移転先を知られないための手段

DVが原因で別居する場合は、加害者に移転先の住所や勤務先・子供の学校や保育園等の預け先を知られないようにする必要があります。加害者に被害者及び子供の居場所を知られないために以下のような手段をとることをお勧めします。

(a)当面は住民票を移さない
住民票を移転先の市区町村に移した場合は、その市区町村の役所に事情を話して申し出ることにより、原則として1年間、当該役所が住民票及び戸籍の附票について加害者及びその代理人からの閲覧・謄写請求を受け付けないことが義務付けられています。しかし、弁護士からの職務上請求に対しては閲覧・謄写を認める自治体もあるため、住民票を移すことにはリスクがあります。

(b)裁判所提出書類の住所記載をマスキングする
DV保護命令申立てや離婚調停申立て・離婚訴訟提起等、DVを理由として個人情報が記載された書類を裁判所に提出する場合には、裁判所に申し出た上で住所や電話番号等相手方に知らせたくない部分をマスキング(黒塗り)してもらうことができます。また、代理人弁護士を依頼している場合には、その弁護士が所属する法律事務所の所在地や電話番号を代わりに記載することができる場合もあります。

ウカイ&パートナーズ法律事務所でも、弁護士が相談者様から聞き取りをした結果、相手方に現住所を知られたくない理由があると認めた場合、当事務所の所在地や電話番号を裁判所への申立書に記載することを認めています。

②子供の学校等を知られないための方策

(a)転居前・転居後の学校等に事情を説明する
住民票を移さなくても、DV相談支援センターを通して移転先の市町村の教育委員会に連絡が行くので、その市町村の公立小中学校に転校することができます。いずれの場合も、DV相談支援センターを通じて、転居前・転居後の学校等に移転の事実を第三者に知らせないように要請して下さい。また、幼稚園・保育園の転園については自治体により扱いが異なるため、転居前後の市町村の役所の担当部署への相談が必要となります。

(2)緊急の場合は警察に通報する

ア 危険を感じたらまず通報する
例えば、夫が飲酒して凶暴になり妻や子供に対して、「殺してやる」等と怒鳴りながら暴行し始めたというように、被害者や子供に対して生命・身体の危険が迫っている場合は、110番するか、子供を連れて最寄りの交番または警察署に駆け込んで下さい。このような場合は、「以前からDV行為を行っていたか」、あるいは、「既にDV相談支援センターに相談していたか」等の事前の状況に関係なく、自身や子供の安全を最優先する必要があります。通報した時点では身体的な被害を受けていなかった場合でも、被害者やその子供が生命・身体に危険を感じるような言動や行動があれば脅迫罪[刑法第222条]に該当するので、警察による逮捕や任意の取調べが可能です。

イ 保護施設には子連れで避難できる
警察に通報した場合、警察署と連携しているDV相談支援センターが運営あるいは運営を委託している保護施設(シェルター)の一時保護を無料で受けることができます。保護施設には未成年の子供を連れていくことができます(ただし子供の年齢制限がある場合があります)。保護施設を利用することができる期間は2週間程度で、保護施設利用中に母子生活支援施設紹介等の支援を受けることができます。

5 裁判所に保護命令申立てを行う

(1)身体的暴力の被害者が申立て可能

ア 最寄りの地方裁判所に申し立てる

身体的暴力かつ・または生命等に対する脅迫(「従わなければ殺す」等)を受けた場合は、加害者によって将来的に危害が加えられることを防止するため、裁判所に保護命令を申立てることができます。申立てが可能な裁判所は、①加害者の住所地 、②被害者(申立人)の住所または居所(身を寄せている場所)のうち、いずれかの所在市町村を管轄する地方裁判所です(DV防止法第11条)。なお、保護命令が発令されるのは、「被害者の生命または身体に重大な危害を受けるおそれが大きい」と裁判所が認めた場合であるため、身体的暴力や生命等に対する脅迫を伴わない性行為強要やモラハラ、経済DVや行動監視等を原因とする保護命令申立ての場合には、認められないことになります。

イ 申立ての必要書類

保護命令を申し立てる際の必要書類として、申立書の他に戸籍謄本や加害者との夫婦関係を証明する資料(住民票・戸籍謄本等)、及び身体的暴力を受けていたことを証明する資料としてDV相談支援センターまたは警察署の相談記録が必要となります(DV防止法第12条1項5号)。もし相談記録を提出できない場合は公証役場で加害者から暴力を受けたことについて供述し、供述内容が真実である旨宣誓した上で公証人が作成した宣誓供述書を提出することになります(同法第12条2項)。DV相談支援センターでの相談は無料ですが、宣誓供述書は作成費用がかかります。必要書類の詳細については、保護命令申立てまでのチェックリスト(裁判所資料)をご参照下さい。

ウ 決定までは1週間~10日程度

保護命令申立て後、担当書記官と裁判官による調査・審尋を受けます(2~3時間程度要します)。その後1週間程度で相手方を裁判所に呼び出して審尋を行った後、早ければ相手方審尋の当日に保護命令が発令されます。ただし、双方の主張が著しく異なっている場合は申立人を再審尋することがあります。

(2)保護命令の種類と内容

①接近禁止命令(DV防止法第10条1項1号)

DV防止法第10条1項1号では、接近禁止命令として、DV加害者が被害者の生活範囲に入ってくることを防止するための措置を定めております。接近禁止命令が出されると、発効日から6か月間、被害者の住居その他の場所で被害者につきまとうことや、被害者の住居・勤務先その他通常所在する場所の付近を徘徊することが禁止されます。

②退去命令(同法第10条1項2号)

DV防止法第10条1項2号では、退去命令として、申立ての時点で被害者と加害者が同居していた場合に、発効日から2か月間その住居から退去することが命じられるとともにその住居付近を徘徊することを禁止する措置を定めております。また、①②のいずれかの申立てをした場合は、別途申立てをすることによって以下の命令を出してもらうことができます。

③加害行為禁止命令(同法第10条2項)

DV防止法第10条2項では、加害行為禁止命令として、発効日から6か月間、加害者が被害者に対して以下の行為を行うことを禁止する措置を定めております。

(a) 面会を要求すること

(b) その行動を監視していると思わせるような事情を告げ、またはその知りうる状態に置くこと (監視カメラやGPSを設置する、メール等で「お前がやってること全部見えてるからな」等と告げる等)

(c) 著しく粗野または乱暴な言動をすること

(d) 無言電話をかけたり、緊急の用事がないのに連続して電話したりFAXやメールを連続送信すること

(e) 緊急の用事がないのに午後10時から午前6時までの間に電話をかけたりFAXやメールを送信すること

(f) 汚物や動物の死骸その他の著しく不快・嫌悪の情を催させるような物を被害者に送付したり、知りうる状態に置くこと

(g) 名誉を害する事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと

(h) 性的羞恥心を害する事項を告げ、またはその知りうる状態に置くこと。またはそのような文書・図画その他の物を送付することや、知りうる状態に置くこと

④未成年の子供に対する接近禁止命令(同法第10条3項)

DV防止法第10条3項では、未成年の子供に対する接近禁止命令として、加害者と同居していた家を出た被害者と未成年の子供が同居している場合、加害者が子供を連れ戻すことをほのめかす等により、子供の連れ去りを制止するために被害者が加害者と面会しなければならない状況になることを防ぐための措置を定めております。やや誤解されやすいのですが、この命令の目的はDVの加害者によって、「被害者の子供」に危害が及ぶことを防止することそのものではなく、子供に危害が及ぶことを防ごうとして被害者が加害者と顔を合わせなければならなくなり、それによって「被害者」に危害が及ぶことを防止することにあります。命令の発効日から6か月間、子供が通学する学校その他の場所で子供の身辺につきまとい、または住居・学校その他その子供が通常所在する場所の付近を徘徊することが禁止されます。なお、申立て時点で子供が15歳に達している場合、命令が発効するのはその子供の同意がある場合に限られます。

⑤親族に対する接近禁止命令(同法第10条4項)

DV防止法第10条4項では、親族に対する接近禁止命令として、加害者が被害者の親族(または親しい関係にある者)の住居に押しかけて怒鳴ったり暴れたりする等の著しく粗野・乱暴な言動を行っていることが原因で、それを制止するために被害者が加害者と面会しなければならない状況になることを防ぐための措置を定めております。④と同様に、発効日から6か月間、その親族等の住居その他の場所で親族等の身辺につきまとい、またはその親族等の住居・勤務先その他通常所在する場所の付近を徘徊することが禁止されます。なお、この場合も申立て時点で当該親族等が15歳以上である場合、命令が発効するのはその親族等の同意がある場合に限られます。

(3)保護命令の延長

保護命令は所定の期間を経過すると終了し、期間の延長は認められていません。保護命令継続を希望する場合は再度の申立てが必要になります。再度の申立てを行う場合は最初の申立ての時と同様にDV相談支援センターでの事前相談を行いその相談記録を添付する必要があります。接近禁止命令の場合、再度の申立てが認められるためには、最初の保護命令の期間中に配偶者から身体的暴力を受けるおそれが大きいと認められる事情があったことが必要になります。例えば、相手から脅迫的な内容のメールやLINEメッセージが届いている等です。

(4)保護命令の取消

保護命令を申し立てた側が保護命令を必要としなくなった場合、申立をした者は保護命令の取消の申立てをすることができます(同法第17条1項)。なお、加害者側が取消の申立てをすることも認められていますが、保護命令が発効した日から起算して3か月を経過した後(第10条1項2号の退去命令の場合のみ2週間経過後)に申し立てて、裁判所が当該取消申立てについて被害者の異議がないことを確認した場合に限られています。

(5)保護命令違反

保護命令を受けた加害者が、保護命令に違反した場合には1年以下の懲役または100万円以下の罰金刑が科されます(DV防止法第29条)。

参照:内閣府男女共同参画局「保護命令」
     裁判所「保護命令手続について」

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DVで離婚するには

法律上、離婚は夫婦間の話し合いによって行うことができます(協議離婚:民法第763条)。しかし、DVの被害者が加害者に離婚を求める場合には通常、話し合いを行うことは困難です。そこで、被害者側が家庭裁判所に離婚調停(家事事件手続法第255条1項)を申し立てて、調停の場で離婚を求めることになります。本章では、DVを理由とする離婚の手続の流れや、慰謝料等の協議事項の定め方、必要な方策等について解説します。

1離婚手続の流れ

(1)離婚調停の申立て

申し立てを行う裁判所は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所です。配偶者の暴力を理由とする場合は申立て時の申請により受付場所や調停期日・控室の階等を別々にしてもらうことができます。また、申立書に記載する住所についても相手側に知らせない措置をとってもらうことができます。現在、裁判所の手続オンライン化を実現するため家事事件手続法や人事訴訟法の改正作業が進んでいるため近い将来全ての手続がweb上で可能になる見通しです。これにより、調停手続中に加害者と顔を合わせるおそれはなくなると考えられます。

しかし、現時点では残念ながら配偶者と裁判所内で顔を合わせる可能性はゼロではありません。DV事例ではオンラインでの調停期日が認められていますが、最後の成立・不成立を決定する期日(意思確認)のみ両当事者が出頭しなければならないことになっています。現実にはこの最終期日に顔を合わせた加害者から危害を加えられる可能性が一番大きくなっているため、被害者側が一人で出頭することは避けた方がよいでしょう。

(2)離婚訴訟の提起

ア 民法第770条1項5号事由を主張する

調停が不成立になった場合、家事事件手続法第284条1項に基づき裁判官の判断により審判手続に移行する場合もありますが、DVを申立て理由とする場合は審判手続が行われることは稀です。加害者が離婚を拒否し続けている場合は、被害者側が家庭裁判所に離婚の訴え(民法第770条1項)を提起することになります。なお、加害者が離婚に同意していて養育費や面会交流等の一部の協議事項について合意が成立しなかった場合、協議事項ごとの調停(面会交流調停等)を申立てることができます。訴訟で離婚請求する場合、民法第770条1項1~5号の法定離婚事由のいずれか(または複数)に該当する理由を原告側が主張・立証する必要があります。DVを理由とする場合は、暴力行為によって婚姻関係が破綻したとして同条1項5号の「婚姻を継続しがたい重大な事由」を主張することができます。

イ DVの立証に必要な証拠

暴力行為の立証にあたっては、以下のような証拠が必要となります。

① DV相談支援センターの相談記録

② 暴力行為により負傷した部位の画像(被害者本人のものであると判別できるように本人の顔面を撮影範囲に入れて下さい)

③ 負傷部位の治療のために受診した整形外科・形成外科等の担当医師の診断書

④ 暴力行為が行われている場面の画像・動画

⑤ 暴力行為が行われた状況を記録した日記・手帳・メモ帳等

⑥ 被害者が心療内科・精神科を受診した場合の担当医師の診断書

なお、既に保護命令を受けていた場合は保護命令書があれば、これらの証拠が全て揃っていなかったとしてもDVの事実の立証に成功する可能性が高いです。

2 DV離婚の協議事項に関わる問題

(1)DVによる慰謝料請求

DV防止法第1条の「配偶者からの暴力」に該当する行為が行われた事実がある場合は、被害者から加害者に対して、不法行為に基づく慰謝料(民法第710条)を請求することができます。慰謝料額はDVの態様や被害状況、双方の資産・収入状況等によりケースバイケースで判断されますが、DVを原因とする裁判離婚では慰謝料請求が認められることが多いです。なお、加害者側が、「DVをやってしまったのは被害者が不倫していたからだ」等と主張して慰謝料支払いを拒否したり、さらに被害者に対して慰謝料請求したりするケースがあります。仮に、被害者が不貞行為を行い、それを知った加害者がDV行為を行ったという主張が真実であった場合は、DV行為を原因とする慰謝料の算定においてその事実を考慮するのが適切であり、加害者の慰謝料支払義務がなくなるわけではありません。また、DV行為が行われるようになってから被害者が他の相手と性的関係を伴う交際をした場合は、別居後の不倫交際の場合と同様、その時点で婚姻関係が破綻しているため不貞行為とは認められず、DV被害者に慰謝料支払義務は発生しない場合もあります。ただ、同居中の不貞行為である場合には、婚姻関係が破綻していることを立証する必要はあります。

(2)離婚に伴う財産分与

夫婦が離婚をする場合、財産分与を慰謝料支払いと併せて行うことができるため、加害者から申し入れがあった場合は検討して下さい。よくある争点としては、財産分与の対象となる「共有財産」と、対象とならない「特有財産」(民法第762条1項)の識別をめぐる争いです。加害者が共有財産の存在を認めない可能性や、加害者が被害者に対し、被害者が独身時代に得た財産や結婚後に相続・贈与等で得た財産(法律上これらは全て被害者の特有財産となります)をよこせ等、理不尽な主張をしてくる可能性があります。これらを容易に承諾しないように、夫婦間の共有財産と特有財産の識別を明確に行った上で正当な主張や反論を行うことが望まれます。

(3)親権・面会交流等

DV離婚の場合、加害者が子供に対しても虐待を行っていた場合は加害者が親権者(民法第819条1項)に指定されたり、子供との面会交流(民法第766条1項)が認められる可能性は低いです。もっとも、子供に対して虐待等の事実がない場合、加害者が親権を主張したり面会交流を求めることも多く、調停が難航する原因となっています。加害者が親権と面会交流の両方を求めて譲らない場合、被害者としては子供への影響がより大きい親権の方を優先して、調停の場での試行的面会交流を経た上での面会交流を認めるという方策もあります。

(4)養育費・婚姻費用

親権の有無にかかわらず、被害者が未成年の子供の監護権者となった場合は加害者に対して養育費を請求することができます。調停または裁判で離婚が成立した場合には、慰謝料・財産分与と同様、養育費について強制執行が可能になります。また、DV離婚ではほとんどの場合離婚前に別居期間があるため、別居期間の生活費を婚姻費用(民法第760条)として請求することができます。

3 離婚後の安全確保

DV離婚で考慮すべきこととして、離婚後の被害者の安全確保があります。保護命令の申立ては離婚後も行うことができる他、既に保護命令を受けていた場合は(最初の保護命令申立てに比べて条件は厳しくなりますが)再度の申立てもできます。また、加害者によるストーカー行為を認識した場合や、その恐れがある場合は警察に相談してストーカー規制法第4条に基づく警告を出してもらうことが可能です。加害者が既に暴行・傷害等で検挙されている場合は、検察庁の被害者等通知制度を利用して加害者のその後の状況を知らせてもらうことをお勧めします。

4 DVで離婚を考えたら弁護士に相談を

DVの加害者との間では調停も難航することが多いところ、代理人弁護士に交渉を依頼することによって慰謝料等の協議事項についての主張を冷静に行うことができます。また、前述のように現在はオンラインでの調停手続が認められた場合も最終期日のみ当事者が裁判所に出頭しなければならないのですが、弁護士が付き添うことで手続終了後に安全に帰宅することができます。また、訴訟では代理人弁護士がいれば当事者が期日に出席する必要がないため、加害者と裁判所で顔を合わせる必要がなくなります。さらに、相手に所在を知られないために気を付けることを細かくアドバイスすることや、離婚後に万一ストーカー行為が行われた場合の内容証明による警告送付等を行うこともできます。DVが原因で離婚を考える方は、DV離婚の実績のある弁護士に相談することをお勧めします。ウカイ&パートナーズ法律事務所でも、配偶者からの暴力に悩んでいる方からのご相談を頂くことが非常に多くあります。

まとめ

上述のように、配偶者から継続的に嫌がらせを受けていると思った方はDV相談支援センターに相談するとともに、離婚を考える場合はできるだけ早く弁護士に相談されることをお勧めします。 ウカイ&パートナーズ法律事務所では、所属する弁護士全員がDV及びDVを原因とする離婚に関わる問題の専門家として、DVで悩む方からのあらゆるご相談にお答えします。当事務所の法律相談は初回30分無料で御利用頂けます。また、当日のご予約も可能で、平日夕方のお仕事帰りの時間や土日にもお越し頂けます。身体的暴力やモラハラ等の被害に遭っている方は勿論ですが、例えば、「不倫している疑いのある配偶者から、離婚の目的で身に覚えのないDVをでっち上げられた。離婚には応じるが慰謝料請求を拒否するために証拠が必要か、また配偶者を名誉棄損で刑事告訴することはできるか」等、広い意味で「DV」に関わる問題で悩まれている方も是非、当事務所の初回30分無料相談をお申し込み下さい。

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